宮崎駿監督作品『紅の豚』を再見。

好きな映画は何度も見直す事が多い。そして それが良質な作品であればあるほど新たなる発見も多い。

今回久しぶりに見返して、『紅の豚』の基本構造は『ルパン三世 カリオストロの城』とほとんど同じであるということに気づいた。

それにどうして気がついたのかというと

「何故マルコ・パゴットは“紅の豚”(ポルコ・ロッソ)になったのか?」

という些細な疑問からである。

彼が「ファシストになるより豚の方がマシさ」と言っていたのは、あれは建前にしか過ぎない。確かにポルコは戦後 賞金稼ぎに身をやつし、飛行艇乗りというプライドだけで生きてきたアウトローではあるのだが、世捨て人になったという事だけが彼を豚にさせた理由だとは到底思えない。

ポルコは何故自分自身に魔法をかける必要があったのか…それは幼なじみジーナへの禁欲だ。

豚は人を愛してはいけない…そして ポルコは自ら豚となり、人妻(未亡人)ジーナへの愛を抑制する…というわけである。

同時に人は豚を愛さない…ポルコは豚になることで他者(ジーナ以外の女性)を寄せつけず、ジーナへの純愛を貫いたという風にはとれないだろうか?(その割には豚さんは若い女性たちにモテモテなのだが/笑)

ジーナは作中 3人目の夫が戦地で亡くなった事を正式に通達され、ひとつの愛を終わらせる。その時点でポルコは愛の勝者になれるのか?…答えはノーである。

「死人に口なし」とはいえ、闘う相手を無くした(亡くした)事で その愛は永遠のものとなる。そしてポルコ・ロッソ(マルコ・パゴット)には戦友であったジーナの夫・ベルリーニを救えなかったという負い目もある(その事もあり ポルコは戦後軍隊から離れ、人殺しもしていない)。

もしかするとポルコの中では どちらにせよ勝ち目のない勝負だったのかもしれない。だが 不実の愛と勝手に決めつけていたのはポルコだけであった…そう、ジーナは何時如何なる時もそばにいて励ましてくれるポルコ(マルコ)に想いを寄せていたのだ。しかしポルコはジーナへの愛を永遠に封印するために豚に身を落とし続けている…そしてジーナはホテル・アドリアーノの庭園でポルコが降りてくるのを待ち続け「賭け」に出ているのだ。ジーナは「ここではあなたのお国より人生がもうちょっと複雑なの」と言っていたが、大人の恋愛とはそう一筋縄ではいかないものなのである。童話『眠れぬ森の美女』や『カエルになった王子』のようにキスをすれば簡単に魔法が解けるというわけではない。問題はキスに至るまでの過程」なのだ。

そこで その役目を買って出る人物が物語中盤から登場する。それが飛行艇職人・ピッコロの孫娘のフィオである。

ポルコとジーナの大人たちの事情とは関係ないところで突如現れた第三者・フィオの接吻によりポルコの魔法は あっけなく解けてしまうのであった。

そしてポルコとジーナ、フィオの間にしゃしゃり出て話を展開させる もうひとりのキーパーソンがアメリカ野郎・カーチスである。カーチスの出現によってポルコは(愛の)勝負の決戦場へと出ざるを得なくなる。ベルリーニも死に、戦争も終わって、ポルコはカーチスという一度無くした好敵手(彼の場合、本当の恋のライバルというよりは「仮想敵」と言った方が適切か/笑)と再び出会う事ができたのだ。

つまり『カリ城』でいうところのカーチスの役回りはカリオストロ伯爵である。

そうなるとフィオクラリスになるというわけで、フィオ(クラリス)をアメリカ野郎(ロリコン伯爵)から引き離すために最後は肉弾戦(『カリ城』でいうところの時計塔内部での闘い)でポルコ(ルパン)はカーチス(カリオストロ伯爵)とお宝(賞金・フィオ・ジーナ)を掛けて一騎打ちをするわけである。

しかし 愛の勝負の勝者・ポルコ(ルパン)はフィオ(クラリス)と結ばれる事はないのである。結局ポルコ(ルパン)は本妻(!?)・ジーナ(不二子)の元へと戻っていくのだ(となると、最後「豚は嫌えだが あんたは好きだ」という名ゼリフを残したマンマユート団・団長の役割は銭形か!?/笑)。

ただ『カリ城』と『紅の豚』が異なる点はラストである。

『紅の豚』では最後にちょっとだけ後日譚が描かれている(つまり『カリ城』では描かれることがなかったクラリスのその後といったところだろうか)。

その中でフィオが最後にモノローグで語った「ジーナさんの賭けがどうなったかは私達だけの秘密…」という余韻を残した台詞がなんとも興味深い。

そこで私が言いたいのは

フィオがジーナとのポルコ争奪戦から その後そう簡単に身を引いたとは思えない

という事なのである。

あれからきっと10年近く時が流れているのであろうか…作中では結局黙して語られなかった「私達だけの秘密」とはきっと

女同士の(ポルコをめぐる)闘い

だったのではなかろうか?(と、いってもそれは決してドロドロとしたものではなかったと思われるが/笑)

仮に『カリ城』に後日譚があったとして クラリスが不二子との激しいルパン争奪戦に参戦していたかどうかは計り知れないが(笑)、クラリスにアクティブな雰囲気を加味したフィオのようなキャラクターであったら、真っ向からフェアな闘いをジーナに挑んでいてもおかしくはなかったであろう。

しかし フィオはこの闘いに勝つことはなかったと私は推測する。

その答えは既に作中にある。ジーナが待つホテル・アドリアーノに降り立つ事なく、新造された真紅の飛行艇で現れたポルコ・ロッソことマルコ・パゴットは 彼女の前で華麗なアクロバット飛行を披露する。

その時大空に描いた軌跡は 大きな、大きなハートマークだったではないか。


(2013.10.19 一部改稿)