市川崑監督の『黒い十人の女』(1961年)は今では有名だし、先日ナイロン100℃により舞台化された事で ご存知の方も多いかと思うが、『犬神家の一族』のように『黒い十人の女』が市川監督自身の手によって映画としてではなく、テレビドラマとしてセルフリメイクされた事を覚えている人は少ないかと思う。

なにせ地上波では一度放送しただけで、ソフト化もされていないのだから。

ちなみに私はオンタイム(2002年)で見ていたのだが、先日CSのフジテレビTWOで放送していたので 久しぶりに見返してみた。

オリジナルは白黒だが、本作はもちろんカラーで ハイビジョン撮影されている。そして シナリオは ほとんど改変されておらず、和田夏十のオリジナル脚本が尊重されている(舞台は現代、神山由美子により一部リライトされている)。

『犬神家~』でもそうだったようだが、市川監督は現場でオリジナル作品の映像をモニターで流して見比べ、限りなくオリジナルと同じカット割りや画角になるよう こだわって撮影していたそうだ。


他人(観客)からすれば「『犬神家の一族』も『黒い十人の女』もオリジナルで充分名作なんだから、わざわざ作り直さなくても…」と思うかもしれないが、映画監督というのはできる事ならば 永遠に納得いくまで自作を作り替えたいと思い願うものである

しかし その願いは そうそう簡単に叶えられるものではない。仮に時間や予算が膨大にあったとしても、なかなか「完璧」というものは存在しないからだ(だからこそ映画監督は「新作が最高傑作でありたい」と願い作り続けるのであろう)。

まぁ今となってはCGやデジタルリマスタリングなんかでやろうと思えばできるのかもしれないが、このような例は そんな映画監督の飽くなき夢を実現した、むしろ珍しい例といえよう。

リメイク作品はそれこそ星の数ほどあり、中にはオリジナルよりも有名な作品もあるなかで、ただでさえマスターピースである作品を、しかもセルフリメイクしたという前例は非常に少ないと思う(そういえば、小津安二郎監督の『浮草』は、サイレント時代の『浮草物語』のセルフリメイクだ)。

厳密に言うとリメイクではなく「リエディション」だが、延々と自作を編集し長く生き続けている『ブレードランナー』『スターウォーズ』のような希有な例もあるが、何故に市川崑は新作ではなく『黒い十人の女』と『犬神家の一族』のリメイクにこだわったのか…それを知るためにも今一度オリジナルとリメイク版を見比べてみるのも面白いかもしれない。


ちなみにオリジナルで音楽番組の収録場面で演奏していたのは ハナ肇とクレージーキャッツであったが、テレビドラマ版では 元ピチカート・ファイヴの小西康陽(the GROOVE ROOM Orchestraとして野本かりあと)が演じている。

で、小西さんといえば 90年代の『黒い十人の女』リバイバル上映の際に尽力した、まさに『黒い十人の女』を再発掘した立役者である。

シネフィルであり、市川崑監督の信奉者である 小西康陽が、こうして市川作品に出演しているというのも なんとも感慨深い。

個人的にはオリジナルで船越英二が演じた 風松吉役は、テレビドラマ版の小林薫の方が好きだ。


本人がリメイクしているという事は つまり「どちらもオリジナル」なわけだが(笑)…さて、あなたは どちらがお好み?w