サーシャ・ガヴァシ監督、アンソニー・ホプキンス主演の『ヒッチコック』を観る。

まず先に言っておこう。これはまずアルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』を観ない事には始まらない映画であるという事をw

それと その他のヒッチコック作品(特に『北北西に進路を取れ』、『めまい』、『鳥』あたり)にも目を通しておくか(オマージュ的演出が多々あり)、ヒッチコック監督に関する基本的な予備知識(例えば 金髪女性が好きで、主演女優のほとんどがブロンドであるとか)を知っていないと あまり楽しめないかもしれない。

つまり本作は「まぁみんな『サイコ』のシャワーシーンぐらいは観ているよねぇ? だって『ヒッチコック』なんていうタイトルの映画を観に来たからには…」みたいな感じで話が進行していくのだw


そして本作のポイントは、もうひとりの主人公・公私共にヒッチコックのパートナーであり、そして裏方として献身的に監督を支えてきたアルマ・レヴェル(ヘレン・ミレン)の存在である。

今まであまり知られていなかった、助監督、スクリプター、脚本家、そして編集マンとしてのアルマの側面と功績、ヒッチコックとの二人三脚をちゃんと映画化できた事は大きいかと(ちなみにアルマは『サイコ』の脚本も一部手掛けているがノンクレジットである。まさに内助の功だ)。


そういやぁ もうひとり、本作を観るにあたり これまた基礎知識として知っておかなければいけない人物がいた!!

それは、エド・ゲインである。

『サイコ』のノーマン・ベイツをはじめ、『悪魔のいけにえ』や『羊たちの沈黙』など、様々の猟奇殺人映画のモデルになっている まさに伝説的な「キング・オブ・サイコキラー」の代名詞なのだが、実は本作にも彼は出演している(しっかしエド・ゲインを演じてた役者さん、激似だったなぁ~w)。

それもヒッチコックの空想の中で語り掛けてくるという、つまりそれはウッディ・アレンの『ボギー!俺も男だ』におけるボギー(ハンフリー・ボガード)であったり、タランティーノ(脚本)の『トゥルー・ロマンス』におけるエルビスだったりするわけだが、この構造は宮崎駿監督の『風立ちぬ』における堀越二郎と飛行技師・カプローニとの関係とも合致するw

つまりエド・ゲインはヒッチコックの心の闇の象徴でもあるわけだ。


小生は学生の時分、自主映画なんぞを作ってきたので ひとつ言える事があるのだが

映画というものはただ観ているよりも、自分で作った方が200倍は面白い

ものなのだw

それは実際に映画を撮り、自分が作ったフィルムが映写機に掛けられ、真っ白なスクリーンに初めて投写された瞬間の恍惚と快感を知っている者にしか理解できないかもしれないが、映画というのは間違いなく 作っている方が面白い…そして それを映画にしたわけだから、「映画の中の映画」が面白くないわけがないのだ。


あと特筆すべきは、特殊メイクでヒッチコック役に臨んだアンソニー・ホプキンス、見事な化けっぷりでジャネット・リーになりきっていたスカーレット・ヨハンソン(言われるまで彼女だとわからなかったw)、そしてアンソニー・パーキンスにあまりにも激似で笑ったジェームズ・ダーシーなど、役者陣のなりきりっぷりが楽しめるのも本作の特徴だ。

それと気になったのは、本作は事実を元にして作られた『サイコ』誕生秘話なわけだが、もちろん映画的に脚色している部分も多々あると思われる。

そういったフィクションの部分も、ヒッチコックの事を知らない若い世代の人が見た時に信じ込んでしまうというか、ミスリードされてしまうんではなかろうかという懸念はあった。

まぁヒッチコックも没後から30年以上経っていますからね、もうすっかり歴史上の人物として語られてしまっているのでしょうか。


★★★☆☆