いつも小津とか喜八っつあんの映画ばっか観ているので、たまにはクロサワ天皇の映画も観ておかなきゃなーと思い立ち 選んだのが、この『天国と地獄』だ。

同じ東宝という事もあり、岡本喜八監督作品の常連でもある伊藤雄之助沢村いき雄などの姿も見られてなんだか嬉しかったw そして小津作品の常連であった中村伸郎の姿もあってニヤリw

『天国と地獄』が公開されたのは1963年。ちなみに小津は'62年に遺作である『秋刀魚の味』を、岡本は同'63年に『江分利満氏の優雅な生活』を撮っている。

しかし圧巻なのは これだけアクの強い役者が勢揃いした作品の中で、三船敏郎が放っていた ある種 異様な存在感だ。調べてみたら、この頃の三船は42歳ぐらいだった(仲代達矢は30歳、山崎努は26歳ぐらい)。えれー貫禄あったなー。歳だけでいったら 今のオイラと大して変わらないのに…w それと仲代達矢の抑制された演技も好きだ。黒澤作品ではよくタッグを組んでいる二人だが、まさに「動の三船、静の仲代」といった感じで楽しめる。

あと舌を巻いたのは、徹底したリサーチによって書かれた ものすごく緻密に練られた脚本だ。

これは今観ても充分に楽しめる内容になっているのだが、やや不満な点もあった。

それは前半の権藤邸内での誘拐事件が発生し警察が介入するまでの一部始終だ。確かに脚本はよく練られており面白いのだが、それはあくまで「台詞劇」としての面白さであって、演出面ではちょっと退屈だったと思う。

嘘だと思うのなら 前半の54分を、目をつぶって観て(聴いて)みると良い。

説明も台詞でしっかりとなされているので、映像を見ていなくても まるでラジオドラマのように内容がよくわかるような作りになっている事に気がついた。これだったら別に映画でなくてもいいじゃんっていうw

まぁそれも前半は ほぼ密室劇として描かれているので あまり動き・変化のある画が撮れない等の原因もあったかもしれないが…。天下の黒澤明でも こういう事はあるのだ(苦笑)。

だが その分(かどうかはわからないが)、後半(こだま号以降)は比較的テンポ良く見せているので 途中で飽きる事はなかった(クライマックスの山崎努を尾行するくだりがちょっと冗長な感じもしたが)。

特急第2こだまでのトリックのシーンは、世界の映画史上に残る名シーンに挙げても良いだろう。

それとパートカラーのシーンは、後にスティーヴン・スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』や マーティン・スコセッシ監督の『レイジング・ブル』、フランシス・フォード・コッポラ監督の『ランブルフィッシュ』等、海外の映画作品にも多大なる影響を与えている。

あと個人的には 自分がかつて住んでいた場所の超ご近所である 腰越漁港や小動、鎌倉高校前、稲村ヶ崎や長谷などの江ノ電と江ノ島がある風景がたくさん登場していたのが非常に印象深かった。街並みなどは変わっても、自然の地形や風景はあまり変わらないですからねw

しかし誘拐事件があると あんなして多角的に捜査するのねぇ~と見ていて ひたすら感心した。メディアを逆手にとって利用した情報操作による頭脳戦とか、今観ても普通に楽しめたし。


で、最後に映画の豆知識を。 本作で三船敏郎は権藤という役を演じたが、誘拐犯役の山崎努は後に『マルサの女』の中で「権藤」という主役級の役を演じている。『天国と地獄』を意識して伊丹十三監督がそうしたのかどうかは今となってはわからないが、これぞ山崎努が体現した「天国と地獄」であり、美しい形の映画の円環でもあるのだ。


★★★★☆