WOWOWぷらすとのロッキー特集を見て再燃。今あらためてロッキーシリーズを見返している。


ロッキーという映画はヒーローの誕生という単なるサクセスストーリーではなく、まさに大いなる「弱者への賛歌」だ。チンピラから成り上がったロッキー・バルボアと ポルノ男優から這い上がったスタローン自身、そしてそれを我が事と重ね合わせて感情移入していく観客と 二重三重写しになっていく映画ならではの高揚感それが今でも観る者を魅了して止まない要因といえよう。


ビル・コンティの劇伴とスタローンの脚本、そしてアビルドセンの緩急のある演出が三位一体となって低予算ながらもこの作品を良質な物にしている(これでアカデミー賞も受賞した)。泣けるシーンでの引き画(エイドリアンとのラブシーンや ミッキーとの仲直りのシーン等)があるからこそ、ラストでの「エイドリアーン!!」のスタローンのドアップが効いてくるのだ。


ただのハッピーエンドでは終わらない、アメリカが、時代が抱えた闇から脱却し、この後まるでミラーボールのようにキラキラと輝く80年代に突入するそれはまさにアメリカン・ニューシネマの終焉であり、新時代への扉を開いたのが この第1作目の『ロッキー』と言えよう。


その後80年代に入ってからもロッキーシリーズは量産されていくわけだが、83年に同じイタリア系移民の血を引くアル・パチーノがロッキーと同じような成り上がりストーリーの決定版『スカーフェイス』を世に放ち神格化させたのも この系譜上にあると考える。

『ロッキー』の世界で底辺にいるのはチンピラボクサー・ロッキーであり、ペットショップに勤め彼氏もいない内気なエイドリアンであり、その兄でありスラムの世界で楽して生きようとするポーリーであり、場末のボクシングジムでトレーナーとして余生を送るミッキーであり、そしてそのヒエラルキーの頂点にいるのが 黒人ボクサーのアポロであるという設定も非常に興味深い(アポロ・クリードから モハメド・アリやマイケル・ジャクソンを連想するのは容易だ)。

奇しくも同じく70年代末には強い女性を主人公とした『エイリアン』が、そして80年代に入ってからは黒人であるエディ・マーフィーが主役の作品が続々と制作された。


そう『ロッキー』は まさしく時代の端境で大きな役割を果たした作品なのである。


★★★★★